サクリファイス

昔(30年くらい前)見たときはよくわからない映画だったと思う。内容も全然覚えていない。今回見てもなんだかよくわからないし、面白い映画というわけでもない。だからといってつまらないわけでもないのが不思議だ。なんとなくずっと見てしまう。

絵に力があり印象的である。画面が美しく力強いのだ。また構図も素晴らしい。ここが安っぽい映画とは違うところ。それによくわからないといっても、なんだか期待感がある。どうなっていくのだろうと思いながらついつい見続けてしまう。たとえ内容がはっきりと理解できなくてもなんだかずっと見ていられるのは、こういったことなどのせいだろうか。

アレクサンドル(エルランド・ヨセフソン)の家の中にJVC(日本ビクター)のカセットデッキとプリメインアンプがあった。製作年の1986年を感じさせる。海岸に日本の木を植えたり、尺八の曲を聴いたりするのは監督の日本趣味か。「惑星ソラリス」でも、未来の描写として日本の首都高速が使われていた。

「ノスタルジア」(1983年)はこの映画の3年前の作品だけど、このときと主演のエルランド・ヨセフソンの風貌がちょっと変わったような気がする。役柄のためか? エルランド・ヨセフソンはベルイマン監督、タルコフスキー監督、テオ・アンゲロプロス監督など、巨匠御用達ともいうべき俳優で、特にベルイマン監督の作品には多数出演している。

いつも映画の記事を書くときは、一応ざっと筋書きを説明するのだけど、この作品はそういうことをしてもしょうがないような気がする。ストーリーがあってないようなものだから、見て感じるというのが一番いい。ちなみにサクリファイスとは”犠牲”とか”いけにえ”とかいう意味の単語である。

この映画の最後にアレクサンドルは自分の家に火をつけて燃やしてしまうのだが、そういえば「ノスタルジア」でも最後の方でドメニコ(エルランド・ヨセフソン)が自分に火をつけて自殺する。動機はやはり自分のためではなくて、人々のためというもの。

タルコフスキー監督の映画は、初期の「僕の村は戦場だった」あたりはまだ具体的な映画だったけど、その後どんどん観念的になっていくとともに、芸術性も高まっていくようだ。その最後が「サクリファイス」なのだから、ストーリーということではないのだ。

1986年製作、アンドレイ・タルコフスキー監督。エルランド・ヨセフソン、スーザン・フリートウッド、アラン・エドワール、グドン・ギスラドッティル、スベン・ボルテル、他主演。

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