「犬神家の一族」は新旧どちらが面白いか

横溝正史原作の「犬神家の一族」という映画はちょっと珍しい。同じ市川崑という監督で、金田一耕助を演じる主演の石坂浩二も同じで30年後にリメイクされているのである。こういう映画は他に思い至らない。普通は違う監督、俳優でリメイクされるのである。それでどちらが面白いのかというと、もう圧倒的に一作目だと思うのである。

一作目のヒロインの珠代は島田陽子、リメイクは松嶋菜々子である。残念ながら、松嶋菜々子では表情が強すぎて、ヒロインの可憐さが出ない。まずここが大きな差である。宿屋の女中なども、一作目の坂口良子は下町の気安さ、ちょっと抜けた感じが違和感なく表現できているが、リメイクの深田恭子ではお嬢さんっぽくてどうしても無理がある。坂口良子の持ち味、演技力に改めて唸らされるのだ。またその他の人物もリメイクはなんだか演技力がイマイチだし影が薄い。

そして佐清の母の松子を演じるのが、一作目では高峰三枝子、リメイクでは富司純子。ここが圧倒的に違うのだ。富司純子もけっして悪くはないのだが、とにかく高峰三枝子の存在感が圧倒的なのである。息子のためなら何でもする。たとえ人殺しでもためらわない。このような、母親の情念の表現が素晴らしい。

主演は石坂浩二演ずる金田一耕助であり、また物語のヒーロー、ヒロインは佐清(あおい輝彦)、珠代(島田陽子)なのだけど、この映画のキモは佐清の母である松子(高峰三枝子)なのだと思う。犬神家にまつわるドロドロの情念と罪を象徴するのが松子なのだ。

この松子の圧倒的な存在感の差が、そのまま一作目とリメイクの差になっている。ストーリーも面白いけど、キャスティングについても考えさせられる作品である。

一作目:1976年製作、リメイク:2006年製作

2件のコメント

    1. 全体的に新旧で演技力もずいぶん違いますね。弁護士なんかも、旧い方は本当にしっくりきていました。

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