百人一首は味わい深い

小倉百人一首には好きな歌が結構あって、たまに歌集を眺めたりしている。中でも特に好きな歌のベストスリーは以下の3つ。

由良のとを わたる舟人 かぢをたえ ゆくへも知らぬ 恋の道かな  曾禰好忠

ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花のちるらむ  紀友則

朝ぼらけ ありあけの月と 見るまでに 吉野の里に ふれる白雪  坂上是則

曾禰好忠(そねのよしただ)の歌はダントツにいい。心情が深く染み入るような歌なのである。曾禰好忠の置かれた現状も合わせて考えることで、より味わいが深くなる。映像美とともに寂寥感のあるこの歌が、私は大好きなのである。

今でも持っている高校の時のテキスト、三木幸信著「解釈と鑑賞 小倉百人一首」の表紙裏に、風土の紹介として「由良のと」について書いてあるのだが、その紹介文がまた素晴らしい。しびれます。
「縹渺(ひょうびょう)として、深いかなしみの色をした海があり、…… その潮の流れに櫓櫂(ろかい)を失って、あてどもなく押し流されていく孤舟にも似た、そんな孤独があった。
都離れた丹後の地で、さみしく暮らした曾禰好忠の、生あることのよろこびとかなしみを包んで、由良川はゆったりと日本海と一つになる。」

紀友則(きのとものり)の歌は、のどかな春の光を背景に散り急ぐ桜の花のはかなさ、「ザ・ジャパン」というか「ザ・日本の心」というか、これぞ日本的な美に満ちている。一般的にも人気の高い歌だ。

雪景色の好きな私にとって、坂上是則(さかのうえのこれのり)の歌の光景、美の世界には非常に心惹かれる。静寂に包まれた、まだ薄暗い明け方の空気に浮かび上がる白銀の世界に、意識が吸い込まれるようだ。

他にもいい歌はたくさんあって、百人一首は意外と楽しい。

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