日の名残り

簡単に言うと、イギリスのある貴族の執事として徹底的に職務に忠実な男を中心に描いた物語である。自分を徹底して押し殺す。執事としての役割を完遂しようとする。完璧な執事であろうとする。どこまでもストイックで執事としてのプライドも高い。主人である侯爵に忠実である。彼に心を寄せる女中頭との淡い心情をも、職務遂行の前では排除される。

執事という職務を完全に遂行することが目的であり満足であるようだが、はたしてそれが幸せなのか。貴族社会の格式や通念に縛られ、がんじがらめになっている彼の考え方に、一般的な幸せの入り込む余地はあるのか。

ダーリントン侯爵の執事頭であるスティーブンスは、他の執事や女中を統率して屋敷を切り盛りしている。彼が採用した有能な女中頭のケントンとは、職務上の対立を繰り返すも、いつしか互いに思慕の情を持つ。しかし職務優先で、そんな想いまで押し殺す彼を諦めたケントンは、他の執事と結婚して屋敷を去る。20年後、ケントンからの手紙にいそいそと会いに行くスティーブンスだったが...。

ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの原作による作品である。原作の良さに加えて、アイボリー監督の描く貴族社会には美しさもあり、観ていて楽しい。

1993年製作、ジェームズ・アイボリー監督
アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン、ジェームズ・フォックス、クリストファー・リーヴ、他主演。

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