アンドリュー・ワイエス「クリスティーナの世界」

先日NHK-Eテレの日曜美術館でワイエスの特集を見た。どこかで久しぶりに企画展でもやるのかと思ったけど、特集の理由は違うものだった。トランプ大統領と移民政策の関係で、アメリカでワイエスを見直す機運が高まっているとのこと。ワイエスの主なモチーフは移民だからだ。

代表作の「クリスティーナの世界」はとても印象に残る絵だと思う。移民であるクリスティーナは足が不自由なので、地面を手で這って歩くのだ。この絵は家族の墓地へ詣でた帰りの光景。自宅の回りのほんの狭い範囲、それがクリスティーナの生きる範囲なのだ。しっかりと手で大地を掴んで這っていく、力強く生きる姿を描いたのか、それとも絶望とあきらめの中で生きる姿なのか。

普通の人からすればちょっとした丘だけど、手で這って登るのは大変である。この絵でも地面がそそり立つ壁のようだ。あんなに遠くに見える家に、いつになったらたどり着けるのだろうか。家を見上げならが懸命に這っていく様子は、自分の境遇を克服する姿とも見えるし、社会の壁に阻まれ苛まれながら生きる姿とも見える。

ワイエス自身は、クリスティーナが力強く懸命に生きる姿を描いたようなのだが、私にはどうもそのように見えなくて、荒涼としたどこか寂しげな絵に感じる。全体的な色調の暗さ、どんよりとした空、遠くに見える灰色の家などがそう感じさせるのか。特に丘の上の家は、永遠にたどり着けないものの象徴のような気がしてしまう。

1993年のニューヨーク近代美術館展と1995年のアンドリュー・ワイエス展に行ったので、もしかしたらこの絵を見ているかもと思ったが、全然記憶に無いし、ワイエス展のチケットも代表作のこの絵を使っていないから来なかったのだろう。あまり貸し出さない絵らしい。

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