わたしを離さないで

ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの原作による作品。ジャンル分けの難しい映画である。SFともドラマともラブストーリーとも言える。全体を通して感じる静けさ。諦観の支配する主人公たちの人生。彼らは自分の運命を知りつつ淡々と生きるのだ。かなり独特の世界観を持った作品と言えるだろう。

寄宿学校に暮らす仲良しの3人。キャシー(キャリー・マリガン)、トミー(アンドリュー・ガーフィールド)、ルース(キーラ・ナイトレイ)は外界から隔絶されたこの学校で、幼い頃からずっと一緒だった。キャシーはトミーに心を寄せていたが、ルースとトミーが恋人同士となったことで、3人の関係にはある種の緊張が生まれる。そんな3人の行く末には過酷な運命が待ち受けていた。

(ネタバレ注意!)
簡単に言うと、この寄宿学校は臓器移植のためのクローンを育てる場所だったのだ。彼らはいずれ臓器を提供して死んでいく運命なのである。ただ彼らは成長してそのことを知っても静かに受け入れる。その日を待って淡々と生きていく。悲しみと諦めを持って自分の運命を受け入れるのである。

似たような状況のSF映画にユアン・マクレガー、スカーレット・ヨハンソン主演の「アイランド」がある。こちらはそんな運命を受け入れず徹底して抵抗し、逃げ出すのだ。こちらは娯楽作品でありSFアクション映画だから、同じく臓器移植のためのクローンを題材とした映画といっても、世界観はまったく違う。テーマは同じでもジャンルが全然違ってくるのが面白いところである。

カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞したばかりだし、「わたしを離さないで」は見応えのある作品だから、一度見ておいても損はないだろう。

2010年、マーク・ロマネク監督。シャーロット・ランプリング、アンドレア・ライズブロー他出演。

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